あめみやしろぐ

お仕事(院内SE)のことをかいたり思いついたことをかいたりします。

「通信のモニタリング」に関するお話

今日のネット(というかtwitter界隈)で以下のような話がちょっと話題になった。

togetter.com

 

 これを踏まえて、「違法である」とか「有線電気通信法の通信の秘密」といった話題も出てきたので(加えてこの話題にいっちょ噛みしてしまったので)、改めて調べつつ覚書程度に残しておきたい。

なお、私は法学の徒ではないし法律を専門に勉強したこともない。一介の素人である。この文章の記述を参考にして損害を受けたとか言われても、そのなんというか、困る。*1

 

まずは「有線電気通信法」について。

「有線電気通信法」(以下「同法」)では第二条でその定義が示される。

第二条

この法律において「有線電気通信」とは、送信の場所と受信の場所との間の線条その他の導体を利用して、電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう。


2 この法律において「有線電気通信設備」とは、有線電気通信を行うための機械、器具、線路その他の電気的設備(無線通信用の有線連絡線を含む。)をいう。

 この条文からして社内ネットワーク(私設LAN)は「有線電気通信設備」と言えそうだ。「送信の場所と受信の場所との間の線条その他の導体を利用して、電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受け」ているのだし。

ちなみに同法では第三条で「有線電気通信設備を設置しようとする者は(中略)総務大臣に届け出なければならない。」と規定される。なんだかここだけ読むと「LANを敷設するときも届け出がいるのか?」と思ってしまいそうだが、同条4項にはこう続く。

4 前三項の規定は、次の有線電気通信設備については、適用しない。

(中略)
三 設備の一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(これに準ずる区域内を含む。以下同じ。)又は同一の建物内であるもの(第二項各号に掲げるもの(同項の総務省令で定めるものを除く。)を除く。)

 ここで「第二項」には「二人以上の者が共同して設置するもの」とか「他人の設置した有線通信設備と相互接続」とか「他人の通信の用に供するもの」とあるので、なんだか私設のLANについては「届け出が不要な有線通信設備」と捉えてよさそうだ。

 

さて、そして同法第九条には次のように記述される。

有線電気通信(電気通信事業法第四条第一項又は第百六十四条第三項の通信たるものを除く。)の秘密は、侵してはならない

というわけで「LANとはいえ有線電気通信である。有線電気通信である以上その通信の秘密を侵してはならない。法律にもそう書いてある。Q.E.D」で話は終わりそうなものだが、そんな簡単かつ平和に終わらないのが世の常である。

 

少し古いが、そしてweb閲覧ではなく電子メールのやり取りにかかわる部分だが、二つの判例を引いておきたい。一つは「電子メール・プライバシー事件」と呼ばれる事件の判例(2001年12月03日)である。

www.zenkiren.com

 

ここで裁判所は以下のような判断を行っている。

従業員が社内ネットワークシステムを用いて電子メールを私的に使用する場合に期待し得るプライバシーの保護の範囲は、通常の電話装置における場合よりも相当程度低減されることを甘受すべきであり、職務上従業員の電子メールの私的使用を監視するような責任ある立場にない者が監視した場合、あるいは、責任ある立場にある者でも、これを監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合あるいは社内の管理部署その他の社内の第三者に対して監視の事実を秘匿したまま個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合など、監視の目的、手段及びその態様等を総合考慮し、監視される側に生じた不利益とを比較衡量の上、社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。

(太字部引用者)

 「社会通念上相当な範囲を逸脱」というのがなかなか厄介である。なんだか相応の立場にあるものによる監視であれば許容されるようなニュアンスにも読める。

 

もう一つは「日経クイック情報(電子メール)事件」と呼ばれるものだ。

www.zenkiren.com

ここでは裁判所は以下のような一般論を述べる。

(企業が労働者に対して懲戒処分を行うための)調査や命令も、それが企業の円滑な運営上必要かつ合理的なものであること、その方法態様が労働者の人格や自由に対する行きすぎた支配や拘束ではないことを要し、調査等の必要性を欠いたり、調査の態様等が社会的に許容しうる限界を超えていると認められる場合には労働者の精神的自由を侵害した違法な行為として不法行為を構成することがある

 これを踏まえて「社内における私用メール利用の調査について違法性はなかった」という判断が続くのであるが「社会的に許容しうる限界」という語がここでもでてきた。なんだかなんとでも解釈できる気がしてきた。

 

通信といえば総務省であるが、総務省の解釈も歯切れが悪い。

5-4  私の会社 では、社員が送受信したメールを上司がチェックしているようです。こういうことは許されるのですか。また、家族のメールを勝手にのぞき見るのはいけないことなのでしょうか。

 

○ 会社内のネットワークにおいては、電気通信事業法上の通信の秘密の保護が及ぶものではありませんが、有線電気通信法の適用の有無が問題となる可能性があります。

www.soumu.go.jp

 

なにがなんだかわからなくなってきた。 

 

今の時代、大部分の会社ではproxyなりを入れているのだろうしその気になれば「誰が何を」見ているかなんていくらでも追跡できる。社内(組織内)のネットワーク/システム管理者の立場的には「できれば業務と関係ないネットの閲覧やメールのやり取りはやめてよね(セキュリティ的なリスクもあるんだし)」、というのが本心ではないかと思う。

実際の運用としては就業規則に記述したり社内教育をしたり、つまるところは個人の「良識」に委ねているところも多いだろう。

 

とはいえ、職業倫理――なんて大仰なものではなく、人としてという感覚かもしれないが――として「なにかことが起こるまではログを取っているだけ」、という管理者が多いのではないだろうか。「なにかことが起こる」なんて来ないことを祈りつつ。

 

技術者のための情報通信法規教本(新版)

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*1:一応工事担任者資格は取っているし、試験範囲に「法規」も含まれてはいるのだが……